Sabishii-Room.

ここに答えはありません。

先輩の話。

 ハローワークの帰り道、アイロンをかける時に使う霧吹きが欲しかったので、大橋駅の中にある100円ショップに寄った。わりと近所なのだが、来るのは初めてだった。それなりに品揃えが豊富なんだな〜なんて思いながら霧吹きを手に取り、レジへ向かった僕はドキッとした。「レジ、先輩に似てる…いや、本人?いやいや、そんなわけない。だって先輩は東京にいるはずだし、バイトするならヴィレヴァンって感じだし…」そんなことを考えながら会計の列に並び、目を凝らして店員の名札を確認した。しかし、そこに先輩の名前はなかった。あるわけないよな、と思ったけど、少しだけ期待している僕もいた。

 高校のとき、写真部に所属していた。写真に興味があったわけではなかったけど、なんとなく、僕の居場所はここだなという直感で入部を決めた。その直感が間違いではないことは、先輩との出会いが証明済みである。

 人生で初めての女性の先輩だった。カメラがよく似合っていて、あんまり前向きではない写真を撮る先輩だった。サブカルチャーに詳しくて、戸川純丸尾末広銀杏BOYZのことは、先輩のmixiから学んだ。知識に着られることなく、ただ自然に存在する先輩は、僕の憧れだった。

 忘れられないバレンタインデーがある。と言っても、好きな人からチョコレートを貰えたとか、そういう類の話ではなく、バレンタインデーの日に更新された先輩のmixiの話。その日、更新された先輩のmixi日記を読んで、僕は度肝を抜かれた。なんと、バンドマンの彼氏と、全身チョコまみれになってじゃれあっている写真がアップされていたのだ。真面目に生きてきた僕の中で、何かが音を立てて崩れる、センセーショナルな一枚だった。いけないものを見てしまったという僕の戸惑う気持ちなんて知らずに、写真の中の先輩は無邪気に笑っていた。

 先輩が高校を卒業することになった時、ワクワクした。もちろん寂しかったけれど、高校生という枠から抜け出した先輩が、社会人として社会の中でどんな風に生きていくのかすごく興味があったからだ。だけど、そんな僕の期待は、Facebookのタイムラインに反映されていなかった。高校生という枠から開放された先輩に、昔ほどの輝きを見つけられなかった僕はひどく落ち込んだ。だけど、もしかしたら、画面上では見えないだけで、先輩はあの頃のままなのかもしれない。大人だから。

 銀杏BOYZの「なんとなく僕たちは大人になるんだ」を聴くたびに思う。いつまでたっても僕は、先輩にドキドキしていたいんだな、と。