Sabishii-Room.

ここに答えはありません。

好きだった人が夢に出てくる話。

 1度も彼女ができないまま、24歳になってしまった。さすがに焦りみたいなものとか、周りの20代に比べて劣っているのだなという敗北感を感じることはあるが、それはそれで、何かが始まりそうな感じがして愛おしい。そんな、完全に拗らせている僕の夢に、好きだった人が出てくるようになってかれこれ1週間になる。

 異性を好きになるってこんな感じなのか、と本当に思ったのは、高校も大学も通過した社会人1年目のことだった。就職活動に失敗し、何もかも投げやり気味になっていた僕が、大学の就職課に紹介されるがままに入社をした会社でのこと。何にも期待せずに迎えた入社式の当日、僕の隣に座っていたのは、これまで出会ったことのない、美しさと可愛さを兼ね備えた背の低いマッシュヘアの女の子だった。「何の努力もしてこなかった僕の隣に、こんな人がいるなんて、これは運命だ」と、恥ずかしながら本当に思った。それからの研修期間、一緒にご飯を食べたり、話題のチーズケーキ屋に一緒に並んだり、時折出てくる北九州の方言にドキドキした。これまで自分が歩んできた道のりは、この人に出会うためだったのかと思えるほど異性を好きになったのはそれが初めてだった。

 24年間生きてきて、一番長く話した女性はその子で間違いないし、女性と2人っきりでご飯を食べたのも、その子が初めてだった。研修期間が終わった頃、僕はその子のことが好きで好きでたまらなくなっていて、大袈裟かもしれないが、その子に会うために会社へ行っていたみたいなところがあった。笑ってしまうけど。

 あるとき、思いきって好意を伝えてみたが、結果は大方の予想通りダメだった。どうにもならないことのほうが多いよな〜なんて思いながら、帰りの電車で自分の気持ちに合う曲をiPodで探していた。そのときに見つけたのが、借りたっきり聴いていなかったback numberのアルバム「シャンデリア」に収録されている「僕は君のことが好きだけど君は僕を別に好きじゃないみたい」という曲だった。ピンポイントで人の気持ちを代弁してくれる歌詞に涙を浮かべながら「そりゃ売れるわ」と思った。

 今年の4月末、諸事情で会社を辞めた。会社に退職願を出す前日の夜、その子と長電話をした。僕は心が不安定になると、LINEなどSNSのアカウントを消してしまう癖があって、そのときも消してしまっていたから、無料通話ではなかった。だけど、通話料金なんてどうでもよくて、その子と話ができることがただ嬉しかった。会社を辞めることを伝えたあと、僕は思い出話のひとつとして、研修期間中の電車での話をしようとした。それは、研修最終日の電車でのこと。いつもは2人で隣の席に座って話をしていたのに、最終日に限って乗客が多く、離れた席に座ったまま話ができずに帰ってしまったことが残念だったという話。さすがに覚えていないだろうと思ったが、それくらい僕は好きだったということを伝えたくて、「研修の最終日にさ」と話し始めた。するとその子は「その日だけ人が多くて隣に座れなかったんだよね。あれは残念だったな〜」と続けたのだ。覚えてくれていたことが嬉しくて、もうそれだけで、その子と特別な関係になることを諦められた。退職した日、感謝の気持ちを伝えたメールを送ったあと、その子の連絡先を着信拒否にして、削除した。

    好きだった人が夢に出てくるということは、やっぱりまだ諦められていないのかもしれない。だけどもしかしたら、形として残すことをしていないからではないか、と思った。だから文章にして残しておこうと思う。活字嫌いなあの子のことだから、このブログを見つけても読まないだろうし。